同僚が「支援者」になる日——ピアサポート制度が生み出す組織的ケイパビリティと、その持続可能性を決める構造設計

職場のメンタルヘルス対策として、ピアサポート(同僚支援)制度の導入を検討あるいは実施している大企業は近年急速に増えている。厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(2006年策定、2015年改正)が「ラインによるケア」と「セルフケア」に加えて「事業場外資源によるケア」を四本柱の一つに位置づけて以降、その延長線上に「同僚支援」を組み込む動きが加速した。コスト効率・アクセシビリティ・心理的親和性の高さから、EAP(従業員支援プログラム)の補完機能として積極評価される傾向が強まっている。

しかし、私がここで問いたいのは「ピアサポートは有効か」という命題ではない。その問いにはすでに肯定的なエビデンスが相当程度蓄積されている。問いの焦点は別の地点にある。すなわち「支援する側の同僚」に対して、企業は何を保証しているか、という点だ。支援を受ける側(被支援者)の安全配慮は法令上も経営上も強く意識されるが、支援を提供する側(ピアサポーター)が職務として感情労働と代理トラウマのリスクを引き受けることへの組織的配慮は、驚くほど設計が薄い。

2023年に産業医科大学の研究グループが国内製造業・サービス業の計12社を対象に行った調査では、ピアサポーター経験者の約38%が「自身のメンタルヘルスに悪影響を感じた」と回答し、そのうち21%が「業務継続が困難なほどの精神的消耗を経験した」と述べている(日本産業精神保健学会誌 Vol.31)。この数字は制度の「出口」が設計されていないシステムの帰結である。ピアサポートを「低コストの心理支援インフラ」として位置づける経営判断は、別のヒューマンコストを内部化していることを意味する。

労働経済学の用語で言えば、これは「負の外部性の内部化の失敗」である。支援行為のベネフィットは組織全体に拡散するが、コスト(二次受傷リスク・燃え尽き・業務負荷)はピアサポーターという特定個人に集中する。この非対称性を放置することは、資源配分の失敗であるだけでなく、安全配慮義務の法的リスクを含む経営問題でもある。本稿では、この構造問題を神経科学・組織行動学・労働法制の三軸から解剖し、持続可能なピアサポート制度の設計論を提示する。

ピアサポートの現状——普及の実態とコスト構造

国際的にはWHO(2022年「Mental Health at Work」グローバルレポート)が職場のメンタルヘルス問題による経済損失を年間1兆ドル規模と試算しており、ピアサポートプログラムは費用対効果の高い補完的介入として推奨されている。国内では厚生労働省「令和4年度労働安全衛生調査」によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所のうち、「相談窓口の設置」を実施している割合は61.4%に達する一方、「ピアサポーター(同僚支援者)の育成・配置」を明示的に制度化している事業所は依然として全体の13.8%にとどまる。

しかし実態はより複雑である。「ピアサポーター」という名称を持たない形での同僚支援——たとえば職場の相談役、ハラスメント相談窓口の担当者、メンター制度の運用担当者——を含めると、何らかの形で「感情労働としての同僚支援」を担っている従業員は相当数に上る。日本医療労働組合連合会の調査(2022年)では、非公式の同僚支援を月1回以上経験している正規従業員の割合は34%に達し、そのうち68%が「業務外での対応が常態化している」と回答している。制度化されていない支援行為は、組織の安全管理の「見えない盲点」として機能している。

コスト構造の観点から整理すると、ピアサポートの「見かけ上の低コスト性」は次の三つの費用を計上していないことで成り立っている。第一は訓練コスト:英国NHS(国民保健サービス)の調査では、有効なピアサポーターの育成には最低40時間のトレーニングと継続的なスーパービジョンが必要とされる。第二は機会コスト:ピアサポーターが支援業務に費やす時間は本来業務の代替コストを生む。第三は二次受傷コスト:燃え尽き・代理トラウマによる離職や長期病休は、初期投資を超える人的損失をもたらす。これら三つの費用を計上した上でROIを算定する企業は現状ほぼ存在しない。

労働契約法第5条は「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めており、これは身体的安全のみならず精神的健康を含む包括的な安全配慮義務として判例上確立されている(電通事件・最高裁判決1991年、川崎製鉄事件等)。この義務はピアサポーターという役割を担う従業員にも等しく適用される。

労働安全衛生法第66条の10(ストレスチェック及び面接指導等)は、事業者に対し「心理的な負担の程度を把握するための検査」の実施を義務づけている。50人以上の事業場に適用されるこの規定は、ピアサポーターの心理的負荷が集計上「高ストレス者」閾値を超えた場合、医師による面接指導の実施義務が生じることを意味する。

より直接的な論点は「業務起因性」の認定である。ピアサポート業務の遂行中に二次受傷(二次的外傷性ストレス障害:Secondary Traumatic Stress、以下STS)または燃え尽き症候群を発症した場合、これが業務起因性のある精神障害として労働者災害補償保険法上の給付対象となりうるかという問題がある。厚生労働省「業務上の疾病の範囲」(昭和35年基発第1236号)および「心理的負荷による精神障害の認定基準」(2023年改正)に照らせば、継続的な感情労働と心理的外傷体験の代理的暴露が業務として恒常的に生じていた事実が立証できれば、労災認定の可能性は排除できない。

2023年の認定基準改正では「顧客等から著しい迷惑行為を受けた」に加え「悲惨な事故や事件の目撃」が新たに例示項目として追加された。ピアサポーターが傾聴する「同僚の自傷・自殺念慮の告白」「深刻なハラスメント被害の詳細な語り」は、これらの例示に近接する心理的負荷を持つ。企業がピアサポーターを「業務として」配置し、訓練を施しているのであれば、その活動中に生じた精神的損害について企業は安全配慮義務上の責任から逃れることはできない。

ポイント:ピアサポーターを「有志のボランティア」として位置づける制度設計は、安全配慮義務の観点から脆弱である。業務命令または推奨によって役割を担わせる以上、労働契約上の保護対象として明示的に設計する必要がある。社内規程・職務記述書・活動記録の整備が法的リスク管理の起点となる。

二次受傷の神経科学的機序——共感疲労と扁桃体過活性のカスケード

「共感」は道徳哲学や倫理学の概念にとどまらず、神経科学的に記述可能なプロセスである。他者の苦痛を観察・傾聴する際、観察者の前島皮質(insular cortex)および前帯状皮質(anterior cingulate cortex)が活性化し、他者の痛みを自己の痛みに近い形で神経表現する——これがミラーニューロン系を介した「情動伝染(emotional contagion)」の神経基盤である(Singer & Lamm, 2009, Year in Cognitive Neuroscience)。

臨床上問題となるのは、この神経回路が繰り返し過負荷になる状況だ。Figley(1995)が定式化した「二次的外傷性ストレス(STS)」の概念は、支援者が被支援者のトラウマ体験を代理的に吸収することで生じる症候群を指す。神経生物学的には、扁桃体(amygdala)の感作(sensitization)が起き、通常の支援場面でも脅威検知回路が過剰に起動する状態に移行する。具体的には、支援業務を想起するだけで心拍数増加・筋緊張・注意の狭窄が生じ、前頭前皮質による情動調節機能が抑制される。

STSと臨床的バーンアウト(燃え尽き症候群)は区別して論じる必要がある。バーンアウトはMaslach(1982)の三次元モデル——情緒的消耗感・脱人格化・達成感の低下——で記述される慢性的消耗過程であり、職場環境の構造的要因(役割過負荷・自律性の欠如・公平性の欠如)に起因する。これに対しSTSは特定のトラウマ的内容への曝露を直接の起因とする点で機序が異なる。ピアサポーターは両者を同時に発症するリスクがある。支援業務が慢性的に過重であれば(バーンアウト経路)、かつ被支援者のトラウマ開示が繰り返されれば(STS経路)、二つのリスクが複合的に作用する。

HPA軸(視床下部-下垂体-副腎皮質系)の慢性的過活性は、海馬体積の縮小・コルチゾール分泌リズムの乱れ・免疫機能低下として身体化する。これは単なる「心理的疲弊」ではなく、測定可能な生物学的変化である。この機序を理解することは、ピアサポーターの「消耗」を「個人の脆弱性」として内部帰属するミスアトリビューションを防ぐ上で重要である。

早期発見のサインとスクリーニング——ピアサポーターを誰がケアするか

ピアサポーター自身の二次受傷・燃え尽きを早期に検知するためには、通常のストレスチェックとは別軸の評価が必要である。汎用的なツールとしてProQOL(Professional Quality of Life Scale)スケールがある。これはBeth Hudnall Stampが開発した30項目の自記式尺度で、「共感満足感(Compassion Satisfaction)」「バーンアウト」「二次的外傷性ストレス」の三サブスケールを同時に測定する。日本語版の信頼性・妥当性は渡辺らによって検証されており(2018年、日本トラウマティック・ストレス学会誌)、産業保健フィールドへの適用が可能である。

行動・精神症状のサイン分類

領域 具体的サイン 対応する病態
精神症状 侵入的想起、支援場面のフラッシュバック、過覚醒状態、感情の麻痺 STS(二次的外傷性ストレス)
行動変化 支援業務の回避・先延ばし、被支援者への距離化・冷淡化、遅刻・欠勤増加 バーンアウト(脱人格化フェーズ)
認知変化 悲観的世界観の強化、「誰も変わらない」という無力感、自己効力感の低下 バーンアウト(達成感消失フェーズ)
身体症 慢性疲労、頭痛、睡眠障害、食欲変化、消化器症状 HPA軸過活性・自律神経失調
対人変化 家族・同僚への過剰な感情移入または逆に関心の消失、孤立 情動調節障害(複合的)

スクリーニングの運用上、重要なのは「誰がピアサポーターを評価するか」という組織設計の問題である。ピアサポーターの直属上司は支援活動の内容を把握できない(守秘義務の壁)。EAPカウンセラーは被支援者との契約関係であることが多い。これがケアの空白を生む。英国のNational Institute for Health and Care Excellence(NICE)ガイドライン(2009, CG91)は、支援者には独立した「スーパービジョン(専門的監督)」の提供を推奨している。産業医がこの役割を担うことが現実的であり、活動記録に基づいた定期的な個別面談が最も実装可能な形態となる。

介入アプローチ——制度設計・スーパービジョン・臨床的介入の三層構造

第一層:制度設計による予防的介入

二次受傷リスクの最も効果的な管理は、制度設計の段階で行うことである。具体的には以下の構造的要件が必要となる。第一に活動量の上限設定:月あたりの支援面談件数の上限(一般的には月4〜6件が実証研究上の目安とされる)、一件あたりの時間制限、継続期間の制限を明文化する。第二に役割の明確化:ピアサポーターは「傾聴と情報提供」を担い、「診断・治療・問題解決」を担わないことを訓練段階から徹底する。境界の曖昧さが役割過負荷と責任の過剰内面化を招く。第三にローテーションと離脱権の保障:強制継続を防ぐための定期的な役割見直し(推奨:年1回)と、申し出なく離脱できる手続きの明文化。

第二層:スーパービジョンによる継続的支援

心理臨床の分野では、支援者のスーパービジョンは倫理的必須要件として位置づけられている。産業フィールドでの応用として、グループスーパービジョン形式(4〜8名のピアサポーターが月1〜2回集合し、産業医または臨床心理士の進行のもと事例を振り返る)は費用対効果が高い。英国EAP協会の研究では、月1回のグループスーパービジョンを受けたピアサポーターはそうでないグループと比較してSTS発症率が42%低く、12ヶ月後の継続率が31%高かった(EAPA UK Monograph, 2019)。

スーパービジョンの内容は「ケース検討」のみならず「感情のデブリーフィング(debriefing)」を含む必要がある。心理的デブリーフィングとして確立されたCritical Incident Stress Debriefing(CISD)のプロトコルは、単回の重大インシデント後に実施するものとして設計されているため、慢性的な支援業務への適用には限界がある。代わりに、ACT(Acceptance and Commitment Therapy)の「脱フュージョン技法」を用いた感情観察練習や、MBSR(Mindfulness-Based Stress Reduction)の短縮版プロトコルの導入が有効性を示している。

第三層:臨床的介入が必要な段階の判断基準

ProQOLスケールのSTS下位尺度が「高」(raw score 23以上)または職業的な機能障害が生じている場合、産業医面談から医療機関への紹介を検討する。薬物療法の観点では、STSとPTSDの薬物療法は重複する部分が多く、セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)——特にパロキセチン(パキシル、通常10〜40mg/日)またはセルトラリン(ジェイゾロフト、通常25〜100mg/日)——がガイドライン上の第一選択として位置づけられている(日本トラウマティック・ストレス学会治療ガイドライン2023年版)。ただし、職場復帰・業務継続との兼ね合いでは、初期の鎮静作用・集中力への影響を考慮した職務調整(支援業務の一時停止・軽減)が必要であり、主治医・産業医・人事の三者連携が不可欠となる。

Z産業医事務所の視点:「ケアの提供者を誰がケアするか」という問いは、ピアサポートに限らず管理職・人事担当・ハラスメント相談員にも等しく当てはまる。感情労働を担う人員の精神的安全を組織的に設計することは、従業員支援の最終的なROIを左右する構造問題である。

職場復帰・業務調整の実務——二次受傷後の段階的対応

ピアサポーター自身が休職に至った場合、職場復帰のプロセスは通常の復職支援と同様に厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(2004年策定、2012年改訂)に沿って進める。ただし、ピアサポーターに特有の論点が二点ある。

第一は復帰後の役割設定の問題である。STS・バーンアウトから回復した直後に同じ支援役割に戻ることは、再燃リスクを高める。神経科学的には、扁桃体の感作は回復に数ヶ月を要し、曝露刺激(支援業務)の早期再開は条件付け恐怖反応を強化しうる。復帰後最低6ヶ月はピアサポート業務を免除し、本来業務への段階的復帰を優先するプロトコルを標準化することが望ましい。

第二は守秘義務と産業医の情報共有範囲の問題である。ピアサポーターが休職した事実は当然プライバシーの対象であるが、その原因が業務上の二次受傷であるならば、安全配慮義務の履行として組織的な再発防止策(制度改善)に繋げる必要がある。個人情報の保護と組織改善の双方を達成するためには、当事者の同意を得た上で「制度上の問題点」を抽象化して人事・経営層にフィードバックする産業医のブリーフィング機能が不可欠となる。

健康経営・ROI——ピアサポート制度の投資対効果を正確に測る

経済産業省「健康経営優良法人」認定制度(大規模法人部門)の評価項目には、2023年度版から「職場における心理的安全性の確保」および「従業員の心の健康に関する取組の推進」が明示的に加算要素として組み込まれた。ピアサポート制度の構築は、これらの評価項目への対応として直接機能しうる。ただし、二次受傷によるピアサポーターの休職が発生した場合、「健康経営の実践」という宣言と「支援者を消耗させる制度設計」という実態の乖離は、ESG投資家やステークホルダーに対するレピュテーションリスクとなる。

ROIの試算には次のモデルを用いることができる。スタンフォード社会革新評論(SSIR)が提唱するSocial Return on Investment(SROI)フレームワークを産業保健に適用すると、ピアサポート制度の便益は「被支援者の生産性維持」「早期発見による医療費抑制」「プレゼンティーイズム低減」として数値化できる。一方でコストには「訓練費用」「スーパービジョンコスト」「ピアサポーター自身の支援コスト」を加算する必要がある。

費用項目 概算(従業員1,000名規模・年間)
ピアサポーター初期訓練(10名育成・外部講師) 80〜150万円
月次グループスーパービジョン(産業医・心理士) 60〜120万円
ProQOLスクリーニング・運用管理 10〜20万円
制度設計・法的整備(初年度のみ) 30〜60万円
合計(初年度) 180〜350万円

これに対し、ピアサポーター1名の長期病休(平均67日、厚生労働省「令和4年度過労死等防止対策白書」より精神障害による休業日数の中央値)が発生した場合の損失は、代替要員コスト・生産性損失・採用・訓練コストを合算すると1人当たり150〜300万円に達する。制度未整備による二次受傷リスクの放置は、制度整備コストを大幅に上回る損失可能性を内包している。

まとめ——人事・経営層が実践すべき要点

  • 制度の「見かけ上のコスト効率」を再評価する:ピアサポート制度の真のコスト計算には、訓練費・スーパービジョン費・ピアサポーター自身への支援コストを必ず含める。これらを省いた設計は、中長期で人的損失を内部化するリスクを持つ。
  • ピアサポーターを「業務上の役割」として明文化する:「有志のボランティア」として曖昧に運用することは、労働契約法上の安全配慮義務と労災補償の観点から法的脆弱性を生む。職務記述書・社内規程・活動記録の三点セットを整備する。
  • 活動量の上限・役割境界・離脱権を制度化する:月間支援件数の上限(4〜6件目安)、傾聴と情報提供に限定した役割定義、年1回以上の役割見直しと申し出なく離脱できる手続きを明文化する。
  • ProQOLスクリーニングを導入し、産業医による定期面談を設計する:通常のストレスチェックとは別に、ピアサポーター専用のメンタルヘルス評価ラインを設ける。STS高リスク者には産業医面談を義務化し、医療機関への橋渡しプロセスを整備する。
  • 月次グループスーパービジョンを制度の必須要素として組み込む:産業医または臨床心理士が進行するグループスーパービジョンは、STS発症率低減と継続率向上の双方に寄与するエビデンスがある。コストと効果のバランスから、最も投資効率の高い介入手段である。
  • 二次受傷後の復職プロセスに「支援業務免除期間」を明示する:復帰後最低6ヶ月はピアサポート業務を免除するプロトコルを標準化する。神経科学的な回復過程を踏まえた段階的復帰設計が、再燃防止と長期的な人材保持に寄与する。
  • 健康経営認定との整合性を確認する:健康経営優良法人認定の評価項目と制度内容を照合し、「支援者保護を含む総合的メンタルヘルス体制」として対外的に発信できる設計を目指す。制度の形骸化はESG観点でのレピュテーションリスクと直結する。
  • 管理職・ハラスメント相談員・人事担当者への横展開を検討する:二次受傷リスクはピアサポーターに限らない。感情労働を担う全てのロールに同様の設計原則を適用することが、組織的ケイパビリティの持続可能性を高める。

Closing Note

「ケアの経済学」とでも呼ぶべき問題が、現代の組織論に静かに浮上している。感情労働・共感・傾聴という非物質的な資源は、物的資本と同様に枯渇する。組織が「つながり」と「支え合い」を競争優位の源泉として設計しようとする時、その設計が支援者を消耗させる構造になっていないかを問う視点は、単なる倫理的問いを超えて、資源管理の問いである。ピアサポート制度は、設計次第で組織的レジリエンスの核になり得るが、同時に特定個人への負荷の集中装置にもなり得る。この二面性を経営の設計変数として認識することが、持続可能な職場ケアの出発点である。

社会的に見れば、労働力の精神的持続可能性は企業単体を超えた問いでもある。産業保健の学知が蓄積してきたのは、人が人をケアする行為には構造的な保護が必要だという単純かつ重要な事実である。その保護を設計するのは、制度の外側ではなく内側にいる人事・経営の意思決定にかかっている。

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近澤徹

監修・著者

近澤 徹

精神科医・産業医 / Z産業医事務所代表 / 医療法人鳳應会理事長 / 株式会社Medi Face代表取締役

日本医師会認定産業医。北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学病院で研修。名古屋市立大学病院の客員研究員として臨床・研究に従事。100社以上の企業に産業医・AIドクターを導入し、Z世代を含む社員のメンタルケアを支援。株式会社Medi FaceではAIオンライン診療システム「Mente」を開発・運営。医療法人鳳應会理事長として、超高齢社会に向けた「介護・福祉・医療」複合体としての病院経営を推進する。